こんにちは!早稲田大学文学部3年生のめろです。
私は、アメリカ・ロサンゼルスに留学していた頃、週末にはアートやカフェめぐりを楽しんでいました。
突然ですが、皆さんにとって「美術館」ってどんな場所でしょうか?
正直なところ、私はつい最近まで
「なんとなくハードルが高そう」 「アートって難しそう」
そんなふうに思っていました。
でも、ロサンゼルスで4つの美術館を実際にめぐってみて、その印象はガラッと変わりました。美術館って、知識がなくても楽しめるんです。むしろ、“わからないからこそ面白い”。そんなことを、体感として教えてくれた場所ばかりでした。
今回は、アート初心者だった私が心を動かされた、ロサンゼルスの美術館4選を紹介します。
目次
はじめに|観光よりも心に残った「美術館巡り」
ロサンゼルスで“静けさ”を求めた週末
ロサンゼルスといえば、青い空とビーチ、ハリウッド、テーマパーク…。私も渡米する前は、「毎日がエンタメ!」という華やかなイメージを抱いていました。
実際に暮らしてみると、そのイメージはあながち間違っていなくて、週末には友人とビーチへ出かけたり、話題のレストランやショッピングモールでにぎやかな時間を過ごしたりと、刺激的な日々が続いていました。
でも、そんな日々の合間にふと、「今日は少しだけ静かな場所で、自分と向き合いたいな」と感じる瞬間があったんです。
せっかくアートの街・ロサンゼルスにいるのだから、観光地を巡るだけではなく、“静かな時間”を通してこの街を感じてみたい。そう思って、美術館をめぐる週末を過ごしてみることにしました。
ロサンゼルス留学と、美術館という「静かな贅沢」
美術館の静かな空間に、自分だけがぽつんといるような感覚。

静まり返った美術館の廊下に、自分の足音だけが響いている。展示室の片隅で、ふとクラシックな鏡に映った自分と目が合った瞬間、「あ、私、今ロサンゼルスにいるんだ」と、現実なのに夢の中のような感覚に包まれました。
あわただしく観光地をめぐる日々の中では気づけなかったけれど、美術館という“静かな空間”で、やっと自分の気持ちとちゃんと向き合えた気がします。誰かと話すでもなく、予定に追われるでもなく、ただ静かに、じっくりと心を整える。そんな時間が、実はとても贅沢で、記憶に残る留学の1ページになりました。
|The Broad(ザ・ブロード):光に包まれる“アートの宇宙”を体感した日
街の中心で出会った、異世界のような建物
ロサンゼルスのダウンタウンを歩いていると、突然目の前に現れる真っ白な建物。表面には無数の穴が空いていて、まるで近未来の建築物のようです。
これが現代アートに特化した私立美術館「The Broad」です。2015年に開館したこの美術館は、全米有数の現代アートコレクションで知られるブロード夫妻によって設立されました。ダウンタウンの中心という立地と、個性的な外観から、今やロサンゼルスを代表する観光&文化スポットのひとつとなっています。
初めて訪れたとき、私はその外観だけで圧倒されてしまいました。「え、美術館ってこんなに個性的でかっこいいものだったっけ?」と、心の中で何度もつぶやいたのを覚えています。
外から見たときのワクワク感で、すでにこの美術館が“特別な場所”であることを感じました。
無料とは思えないクオリティ。作品と空間に引き込まれる
The Broadの魅力のひとつは、なんといっても常設展が無料で観覧できる点です。ロサンゼルスの美術館は入場料が高めなところが多い中で、学生の私にとってはとてもありがたい存在でした。
中に入ると、そこはまるで美術の遊園地。ジャン=ミシェル・バスキア、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、草間彌生…。現代アートを代表する巨匠たちの作品が、広々とした空間にゆったりと展示されています。
作品の前で立ち止まっている人たちは、みんな思い思いに写真を撮ったり、語り合ったりしていて、とても自由な雰囲気でした。「美術館って静かに観る場所」というイメージがあった私は、その空気感にまず驚かされました。堅苦しさは一切なく、“アートを楽しむ”という空気が全体に流れていたのです。
写真を撮りたくなるアート空間
The Broadは、現代アートの名作がずらりと並ぶ、美術館初心者にもおすすめのスポット。
ポップでユニークな作品が多く、写真映えもばっちり。とにかく“楽しい”という感覚が最初に来る美術館です。

これは、Jeff Koons の青いバルーンドッグ&ラビットの展示です。
アメリカの現代美術家、ジェフ・クーンズによる代表作。大きなバルーンアートのように見えて、実は鏡面仕上げのステンレス製でできています。
“キッチュ”や“大衆文化”をテーマにしたこのシリーズは、一見ポップで親しみやすいけれど、その裏には「消費社会」や「価値」の問いが込められているのだとか。
実際に目の前に立つと、自分やまわりの人が反射して映り込み、まるで自分自身が作品の一部になったような不思議な感覚に。「これ、美術館にあるの!?」と思うほどのインパクトとユーモアがあり、アートに詳しくなくても一瞬で惹きこまれました。

色とりどりのチューリップの彫刻の展示もありました。
こちらもジェフ・クーンズの作品で、色とりどりの巨大なチューリップをモチーフにした彫刻。
夢の中に出てきそうな、ポップでおもちゃのような質感と色合いは、見る人の気持ちをふわっと明るくしてくれます。花束という誰にとっても身近なモチーフを、あえて大きく、素材もメタリックに仕上げることで、「アートって自由でいいんだ」と思わせてくれるような作品でした。
展示のまわりでは、たくさんの人が笑顔で写真を撮っていて、誰もが自然と笑顔になっていました。アートって、こんなに人を明るい気持ちにさせてくれるんだ、と実感した場所です。
美術館の余韻を楽しむには、隣のカフェもおすすめ
展示をひと通り見終わった後、私は美術館のすぐ隣にあるレストラン「Otium」でひと息つきました。
このOtiumは、The Broadと同じ敷地内にあり、なんとThe Broadの設計を手がけた建築家がデザインした空間でもあります。外観やインテリアの雰囲気も美術館と統一感があり、まるで“もうひとつのアート空間”に迷い込んだようでした。
ガラス張りの開放的な店内で、ラテを飲みながらスマホでさっき撮った写真を見返していると、自分が作品の中に“存在していた”感覚が、じわじわとよみがえってきました。
アート初心者こそ、最初に訪れてほしい場所
The Broadは、アート初心者にこそおすすめしたい美術館です。
難しい知識はまったく必要なく、ただ目の前にある作品を“自分の感覚で感じる”だけで、何かが心に残ります。
作品の美しさだけでなく、空間の心地よさや、訪れている人たちの雰囲気も含めて、私はこの美術館が大好きになりました。
ロサンゼルスに来て、「ちょっといつもと違う時間を過ごしてみたいな」と思ったら、ぜひ足を運んでみてください。
“現代アートって楽しいかも”という新しい視点に、きっと出会えるはずです。
|LACMA(ラクマ):歩くたびに世界が広がる、美術館という“文化の迷路”
写真でしか知らなかった“あの場所”に、自分が立っている不思議
ロサンゼルスに来る前から、ずっと見てみたかった風景がありました。
それが、LACMAの象徴的なインスタレーション《Urban Light》。白い街灯が200本以上並ぶその景色は、映画やSNSでもおなじみの場所です。実際に目の前に立ってみると、写真で見た印象よりずっと壮観で、思わずその中を歩き回ってしまいました。
昼間はカリフォルニアの太陽に照らされて明るく爽やか、夜になるとライトが灯ってロマンチックな雰囲気に。
どの時間帯に訪れても、特別な1枚が撮れる場所だと思います。
世界最大級の規模を誇る“アートの迷宮”
LACMAは、1965年に開館したアメリカ西海岸最大級の総合美術館です。
実際に訪れてみて驚いたのは、そのスケール感だけでなく、空間のつくり方や導線の設計もとても自由だったこと。ひとつの建物から別の展示館へ移動する際、屋外の広場を通り抜けるのですが、その途中で見上げた空の広さや、現代彫刻が点在する風景に、「ここは本当に美術館なんだろうか?」と錯覚してしまうような瞬間がありました。
私は、「今日はどの国の美術を旅しようかな?」と気ままに歩きながら、アートとともに“世界旅行”をしているような感覚に浸っていました。LACMAは、芸術の知識がなくても、ひとつの作品や空間との出会いをきっかけに、新たな興味や発見が生まれていく、そんな豊かで開かれた場所でした。
“美術館=静かに観る場所”という思い込みが崩れた
LACMAの魅力は、展示そのものだけでなく、美術館全体の“開かれた雰囲気”にもあります。
私が訪れた日は週末だったこともあり、子どもを連れた家族やカップル、観光客など、いろいろな人が思い思いに過ごしていました。
展示室の中ではもちろん落ち着いた雰囲気ですが、屋外や通路では親子が楽しそうに会話をしていたり、小さな子どもが作品の前で「あれ何?」と話しかけている姿も見られました。
日本の美術館のように「静かにしなければ」と緊張するような雰囲気ではなく、アートが日常の延長にあるような、のびやかな空気感がとても心地よかったです。
世界中のアートが、建物ごとに分かれて旅のように楽しめる
LACMAの展示はとても幅広く、建物ごとに世界各地の文化や時代をテーマに分かれています。
中東・アジア・ヨーロッパ・アメリカ…と、まるで国境を越えて旅をしているような気分になります。
私が特に惹かれたのは、アジア美術エリアでした。日本や中国の仏像や陶磁器、掛け軸などが展示されていて、アメリカにいるのにどこか懐かしい気持ちに。同時に、「自分の国の文化って、こんなふうに海外では展示されるんだ」と新たな視点を得ることもできました。
現代アートのコーナーでは、理解が難しい作品や、ちょっと笑ってしまうような映像作品にも出会えます。でもそれが逆に、「アートって正解がないから面白い」という感覚を自然に教えてくれた気がします。
「好き」が見つかる、アートの迷路みたいな場所
LACMAは、「アートは好きだけど、どこから触れていいかわからない」という人にこそおすすめしたい場所です。
ジャンルも時代も幅広く、展示棟ごとにテーマが異なるので、館内を歩いているだけで、まるで文化の迷路を旅しているような感覚に。気になる作品があれば立ち止まって、ピンとこなければそのまま通り過ぎてもOK。まるで美術の世界を旅するように、自由に歩ける雰囲気が魅力です。
気づけば、「アートって、こんなに多様で面白いんだ」と感じている自分に出会えるはずです。静かに観るだけでなく、“歩いて感じる”“自分のペースで楽しむ”ことができる——そんな自由な雰囲気が、この美術館の魅力です。「アートに正解なんてない」と、そっと教えてくれるような場所でした。
|Getty Center(ゲティ・センター):芸術に囲まれて深呼吸した、あの丘の記憶
トラムに乗った瞬間から、もう旅は始まっていた
ゲティ・センターは、ロサンゼルス中心部から車で約30分、ブレントウッドの丘の上に広がる、自然と建築、そして美術が融合した壮大な文化施設です。石油王 J・ポール・ゲティの莫大な寄付によって創設されたこの美術館は、アメリカでも屈指の規模と格式を誇る場所として知られています。
私はダウンタウンからローカルバスを乗り継いで訪れました。美術館のふもとに到着すると、ゲティ・センター名物の「無人トラム」が出迎えてくれます。トラムは丘の中腹から山頂にある施設までをゆっくりと運んでくれるのですが、ただの移動手段ではありません。その瞬間から、すでに“特別な体験”が始まっていると感じさせるような演出があるのです。
白く光るモダンな車体、カーブを描きながら登っていくレール、車窓から見える広大なロサンゼルスの街並みと遠くの山並み。自然光が車内をやわらかく照らし、ほんの数分の道のりなのに、まるで映画のワンシーンのような時間が流れていました。「アートを観に来たはずなのに、もう旅が始まっている」——そんな気持ちになったのを今でも覚えています。展示を見る前から心が解きほぐされ、感性が静かに目を覚ましていくような感覚。まさにゲティ・センターならではの“始まりの演出”でした。
建物全体が“美術品”。石と光がつくる静かな美しさ
敷地はとても広く、展示館、庭園、レストラン、図書館などがそれぞれゆったりとした距離感で配置されています。どの建物にも自然光がやわらかく入り、空間の広がりが心地よくて、ただ歩いているだけでも癒されるような不思議な感覚があります。展示館内は、階段やスロープを使いながら移動する構造になっていて、一方向に流れていくのではなく、ゆっくりと“建築そのものを味わいながら歩く”ような体験ができます。どこか、山の中を散策しているような、迷路のような心地よさもありました。

天井から差し込む自然光を受けて、ガラスやアクリル素材が織りなす光と色が、時間や天気によって刻々と表情を変えていきます。刻々と移り変わる光の帯に、見惚れて立ち止まってしまいました。まさに“その時その場でしか出会えないアート”です。
私が訪れたときは、朝のやわらかな光が作品全体をふんわりと包み込み、まるで虹の中にいるような幻想的な空間に感じられました。「作品を観る」というより、「光の中に入る」ような体験ができる場所でした。

展示を見終えたあと、ふと足を運んだカフェスペースも印象的でした。目の前に広がるロサンゼルスの景色を眺めながら、アートの余韻に浸る贅沢な時間。建物の美しさと周囲の自然が調和していて、ここにしかない“時間の流れ”が感じられました。この場所全体に流れているのは、写真では伝えきれない静けさ、丁寧に設計された空間の余白、そして「訪れる人が、自分のペースで過ごしていい」という優しい空気感。喧騒を離れて、感覚をリセットするようなひとときが、ここには確かにありました。
名画を前にして感じた、「知ってる」のその先
ゲティ・センターには、ヨーロッパ絵画を中心とした質の高いコレクションが所蔵されています。そのなかには、モネ、ゴッホ、レンブラントといった有名画家の作品も多く含まれており、これらの巨匠の作品を、自然光の差し込む静かな空間でじっくり観ることができます。
私がとくに印象に残ったのは、ゴッホの《アイリス》。
教科書で何度も見たことのある作品でしたが、実物を目の前にすると、色の深さ、タッチの力強さ、絵の周りにある空気までもが“本物”でした。「これは知ってる」ではなく、「今、出会った」と感じるような感覚。
きっとそれは、絵そのものだけでなく、空間や静けさ、そしてそこにいる自分の“心の余裕”がそろったからこそ、得られた体験だったと思います。
美術館でピクニック?ここなら違和感ゼロです
私がゲティ・センターを大好きになった理由のひとつが、展示室以外の過ごし方も魅力的だったことです。
敷地内には開放的なカフェテリアやミュージアムショップ、緑の芝生や見晴らしのいいテラス席があります。お昼時には、ピクニック気分でサンドイッチやスープを広げて食べている人たちがたくさんいました。

私もラテとパニーニを手に、芝生に座ってひと休み。遠くにロサンゼルスの街並みが広がっていて、「アートに囲まれてお昼を食べる」という贅沢な時間を味わうことができました。周りを見渡すと、本を読んでいる人、絵を描いている人、ただぼーっとしている人もいて、それぞれが“自分の時間”を過ごしているのが印象的でした。
「静けさに身を置くこと」が、こんなに心に効くなんて
展示室では、絵画や彫刻の前に静かに立ち、ゆっくりと時間をかけて作品と向き合う。屋外に出れば、視界いっぱいに広がる空と、丘の上を通り抜ける風が、自然と心の中を整えてくれる。ゲティ・センターで過ごした1日は、まるで美術と自然の両方から“心を整えてもらった”ような体験で、まさに“静けさの贅沢”に満ちた時間でした。
たくさんの作品を見たというより、ひとつひとつの作品にちゃんと向き合えた、そんな感覚が残っています。美術館というと、つい「全部を観なきゃ」「解説を理解しなきゃ」と思いがちだけれど、ここでは、自分のペースで歩き、心が動いた瞬間にだけ立ち止まればいい。
何かを「学ぶ」よりも、「感じる」ことに集中できる時間がありました。
ロサンゼルスでの生活や観光は、どうしてもスピード感のあるものになりがちですが、そんな日々の中でふと立ち止まって深呼吸したくなったら、ゲティ・センターは、そのための“最適な場所”なのかもしれません。
|Hammer Museum(ハマー美術館):日常のすぐ隣にある、“問いかけてくるアート”
UCLAの街に溶け込んだ、気軽に立ち寄れるアートスポット
Hammer Museumは、UCLAのすぐ近く、ウエストウッドという学生街に位置する、現代アートに強みをもつ美術館です。
1990年にオープンし、現在はUCLAが運営しています。そのため、学生や若い観客が多く、アートと教育・社会がつながっているような雰囲気が特徴です。入館料は無料で、観光地というより誰でも気軽に立ち寄れる“地元の文化拠点”といった雰囲気で、美術館という言葉から想像する堅さや静けさはほとんどありません。チケット予約も必要なく、ふらっと立ち寄れる気軽さがとても魅力的でした。
建物は一見美術館には見えないほどシンプルですが、中に入ってみると、真っ白な中庭を中心に展示室、ブックショップ、カフェが広がっていて、静かな知的エネルギーを感じる空間が広がっています。
「わからない」からこそ立ち止まりたくなる、現代アートの力
Hammer Museumの展示は主に現代アートが中心で、難しいテーマを扱った作品が多く並んでいました。展示内容は、常設というよりその時々で入れ替わる企画展が中心です。
テーマはジェンダー、移民、社会構造、記憶、身体性…など、どれもやや“尖った問い”を投げかけるような内容が多め。私が訪れたときも、部屋に入るたびに「これはどう感じればいいんだろう?」と一瞬立ち止まるような作品が並んでいました。
でも、その「わからなさ」が妙に心に残るのです。
たとえば、ただのモノクロの映像のループや、意味ありげな言葉を繰り返す音声作品。最初は戸惑いながらも、しばらく立ち止まって観ていると、「これって、今の社会の何かを映しているんじゃないか」と考えたくなるような力がありました。
まるで、作品と対話をしているような時間。アートは“美しい”だけじゃなく、“問いかけてくる”ものでもあるんだと気づかされた瞬間でした。アートに“答え”を求める癖がある人ほど、ハマーの展示は刺激的かもしれません。
印象に残ったのは、余白のある空間と、思索の時間
特に印象に残っている展示は、まるで高校の教室のような空間に、机と黒板だけが置かれ、スピーカーから過去の歴史の出来事が淡々と流れてくる作品です。特に何が起こるわけでもなく、ただその音声と空間があるだけ。
でも、「この作品が問いかけているのは“記憶”なのかな」「歴史を誰がどう語るのかって、実はすごく個人的なことかも」──そんな風に、自分の中でゆっくり解釈が生まれていくのが面白かったです。この“何もない時間”が、逆に「自分にしかできない体験」になっていた気がします。気づけば私は、展示だけでなく、“考える時間そのもの”を楽しんでいたのかもしれません。
たまたま出会った作品が、じわじわと記憶に残る。こうした“じわじわくるアート”に出会えたのは、私にとってHammer Museumが初めてでした。
カフェや本屋も、まるで知的なセレクトショップ
アート鑑賞だけでなく、併設されたカフェやブックストアもとても素敵でした。
特にブックストアは、アートブックや写真集、詩集、リトルプレスなどの品揃えが独特で、普通の本屋では出会えないような“知的なひらめき”に満ちていました。どれもセレクトに個性があって、「この空間の知性は、作品だけでなく店内にも染み出しているな」と思いました。
私も、表紙がかわいくて内容がちょっと謎なZINEをひとつ購入。家に帰ってから読んでも、「なんだかよくわからないけど、また読み返したくなる」ような不思議な感覚が残りました。今でも本棚に置いていて、たまに開くたびに当時の空気感を思い出します。
カフェも落ち着いた雰囲気で、パソコンを広げて仕事をしている人、ただコーヒーを飲みながら休憩している人、それぞれが自由に過ごしていました。ここが“暮らしの中にアートがある空間”として、しっかり根づいていることを実感しました。
終わりに|“アートに詳しくなくても、心はちゃんと動く”と教えてくれた4つの場所
最初は「なんとなく不安」だった
ロサンゼルスで美術館をめぐった数日間は、テーマパークやビーチでの観光とはまったく違う、静かで濃密な時間でした。
最初は「アートって難しそう」「どう楽しめばいいかわからない」と戸惑っていた私。でも、4つの美術館をめぐるうちに、ある大切なことに気づきました。
それは、“わからないままで大丈夫”だということ。
知識がなくても、うまく言葉にできなくても、心はちゃんと反応する。作品を見て感動したり、首をかしげたり、ちょっと笑ったり。そのどれもが、自分なりのリアクションであり、“ちゃんとアートを楽しんでいる証拠”なんだと気づきました。
4つの美術館、それぞれに残った“心の景色”
The Broadでは、作品だけでなく建築や空間全体が感性を刺激してくれました。
LACMAでは、文化の多様性や歴史と向き合うような“旅”の感覚がありました。
Getty Centerでは、名画と光に包まれて、ふと深呼吸したくなる時間が流れていました。
Hammer Museumでは、「正解のない問い」に向き合う、自分だけの“思考の余白”がありました。
同じ“美術館”というカテゴリーでくくられていても、そこで得られる体験は本当にさまざま。
でも共通していたのは、どの場所も“今の自分”に必要な何かを、そっと渡してくれる場所だったということです。
「ただ感じる」ことが、いちばん贅沢な楽しみ方かもしれない
アートに詳しくなくても、事前に準備なんてしなくてもいい。
大切なのは、作品の前で立ち止まる“自分の心の動き”に目を向けること。目の前の作品と、そこにいる自分を信じて、ただ感じればいい。
それが、ロサンゼルスの美術館たちが私に教えてくれた一番大切なことでした。
ひとつだけ、静かな時間をロサンゼルスに
もしロサンゼルスを訪れる機会があれば、どうか“静かな時間”を一度だけでもつくって美術館に足を運んでみてください。にぎやかな観光も素敵だけれど、静かに自分と向き合える時間は、思っている以上に心に残るものです。
あなたにも、きっと「この作品に出会えてよかった」と思える瞬間があるはずです。
その感覚を、ぜひ体験してみてください。