英語専門塾「セプト(群馬県・高崎市)」や数学専門塾「数ラボ(群馬県・高崎市)」を運営し、自らも国際的な英語教授資格である「CELTA」の最上位ランク「PassA」を取得。数々の予備校で日本の英語教育と世界基準の英語教育の融合を目指して英語の授業を行う予備校講師「武藤一也先生」に、新・大学入試の英語を伸ばすために、高校生が知っておくべきこと、やるべきことをインタビューしました。
目次
武藤一也先生プロフィール
武藤 一也(むとう かずや)
群馬県生まれ。群馬大学社会情報学部卒。英検1級、TOEIC 990点満点、TOEIC S/W 各200点満点。 国際的な英語教授資格 CELTAにおいて世界の上位5%(Pass A)で合格(日本人のPass A取得者は極めて稀)。 音読アプリ「音読メーター」開発者。英語問題作成所ディレクター。 「イチから鍛える英語長文シリーズ(学研プラス)」など著書多数。 群馬大学・高崎経済大学・高崎健康福祉大学・河合塾などでも指導経験有り。 年間100回近く公開授業やセミナーで講演。 趣味はタップダンス。
英語の勉強は入試のためだけではない!
早速ですが、大学入学共通テストがスタートし、大学受験の英語、ひいては日本の英語教育は新しい時代を迎えたと言えると思います。英語教育に対して先生はどのようなお考えをお持ちでしょうか。共通テストのスタートや学習指導要領の改訂と、英語学習を取り巻く状況は大きく変わってきていますよね。
そうですね。私が常日頃思っているのは、”English is not only for the test, but also for your future”、つまり、英語学習は生徒ひとりひとりの将来のためにある、ということです。授業では「大学入試や様々なテスト、試験をどう攻略するか」という話もするのですが、そもそもの英語学習の目的は、単に読めるようになることでも、話せるようになることでもありません。私は”English is a great tool to expand your horizons”と言っているのですが、英語は皆さんの視野を広げ、日常を豊かにする素晴らしい道具で、自在に操ることができれば、人生は2倍、3倍とおもしろくなっていくということです。
単に「英語を使える」ではダメで、「英語を使って何かできるようになるか」というところに英語学習の目的がある訳ですね。
その通りです。その上で、何が効果的な英語学習法なのか、何が正しい努力で何が間違った努力なのか、そういったことを日々考え、お伝えしています。
リスニングの基本――”IKEA”、”schedule”……実は知らない正しい読み方
新学習指導要領では、英語4技能、つまり「リーディング」「リスニング」「スピーキング」「ライティング」の総合的な強化に重点が置かれていますよね。生徒たちの英語学習法も変わっていくと思うのですが、今の段階で武藤先生が効果的と考える学習法を教えてください。
その前に一つ。
実は、英語って4技能に分ける必要はないんですよ。もちろん、リスニングの講座であればリスニング力を上げることが一番大事な目的ですが、リスニング力をあげながらリーディング力、ライティング力、スピーキング力を伸ばすことはできます。というか、その方が圧倒的に英語力は伸びます。
ただ、この中で伸ばすことが圧倒的に難しいのはリスニングです。そして重要な能力もリスニングです。実際に大学入試の現場でも従来の「センター試験」でリーディング:リスニングが200点:50点であった配点が、2021年にスタートした「大学入学共通テスト」では100点:100点になっています。
それだけリスニング力は大学入試においても重要視されています。
なので、今日はリスニングを中心にお話ししていきたいと思います。
リスニングが苦手な人は、「速いから聞き取れない」と思ってしまうのですが、実はネイティブに言わせれば、大学入学共通テストも英検も、TOEFL、TOEIC、IELTSも、すべての英語の試験は「遅すぎて気持ち悪い」ものなんです。ではなぜ聞き取れないのか?それは音を間違って覚えているからです。3つほど例を用意してきたので、一つずつ説明しますね。
I went to IKEA yesterday.
まず ”I went to IKEA yesterday.” これ、文字で見ると、この話をしている人がどこに行ったのかは誰でもわかりますよね。IKEA、スウェーデン発の家具屋さんです。でも、音声で聞くとほとんどの生徒さんが分かりません。なぜかというと、日本語では「イケア」と言っていますが、英語では「アイキーア」と発音するんですよ。
私たちがカタカナで読んでいる読み方と、実際の発音が違うということですね。マクドナルドとMcDonald’sみたいに。
そう。皆さんが記憶している音と英語の正しい音が違っているということは往々にしてあることなんです。
音を適当に読んで分かった気になっている人が多いのです。
では、次の例にいきましょう。
Let me check my schedule.
”Let me check my schedule.” 文字ならすぐ意味が分かります。でも、実はアメリカン・イングリッシュとブリティッシュ・イングリッシュで発音が違っていて、前者は「スケジュール」、後者は「シェジュール」のように発音します。
もしブリティッシュ・イングリッシュで発音されたあとにこの文を見たら、「スケジュールじゃないの?」って思ってしまいますよね。
そして実際に、共通テストはアメリカン・イングリッシュとブリティッシュ・イングリッシュ、どちらも使われます。TOEICになれば、オーストラリア英語にニュージーランド英語も入っています。
受験生は大変ですね。
私はいいことだと思っています。というのも、今って、世界のいろいろな人がいろいろな英語でコミュニケーションしている時代です。
私のように、英語のネイティブスピーカーではないしバイリンガルでもないけれど英語で流ちょうにコミュニケーションができる、proficient English speakerも世界中にいます。
少し話がそれましたが、単語を覚えるときには、見て、聴いて、読む。正しい意味だけでなく、発音も必ず覚えてください。これが基本中の基本で、その積み重ねでリスニングの土台ができます。
もう一つ、最後の例です。
Please drop by any time, Cathy.
”Please drop by any time, Cathy.” 一つ一つの単語はどれも知らない人はいないと思います。
でも、これも聞き取れない生徒がたくさんいます。なぜかというと、”drop by”のpの音が落ちて、単語と単語がくっついて音が変わるんです。
それは、単語の勉強だけではなかなか気付かなさそうですが。
そこが、まさにわれわれ講師の出番というところですね。英語学習においては、皆さんが各自ですべきことと、講師など誰かと一緒に学ぶべきことが明確に区別できるんです。単語を学ぶことは一人でできても、先ほどのような「”drop by”ではpの音が落ちる」というようなアドバイスは、誰かと一緒に学ぶ中で教えてもらうべきことです。
誰かに教えてもらわないと知らないまま、ということはたくさんありそうです。
そうだと思います。実はリスニング問題って、ひっかけがけっこうあります。
”won’t”と”want”
”live”と”leave”
”long”と”wrong”
などの似た音が正確に聞き分けられているかどうかのひっかけ問題はよくあるし、他にも、時制でひっかける、代名詞でひっかける、主語でひっかける……いろいろあります。それを皆さんに教えるのが授業です。
試験を意識した実践的な勉強となると、やはり指導者の存在はすごくありがたいですよね。
さらに言えば、私が目指す授業は、私の授業を受けたあとで皆さんの自主学習の質が上がるというものです。私と勉強する時間より、皆さんが1人で勉強する時間のほうが長いですから。
授業を受けただけで英語ができるようになれば、苦労はしませんからね。
そういうことです。
リスニング学習にはもう一つ重要なことがあります。リスニング試験の勝負を決めるのは「準備」ということです。準備とは、どんな内容が話されるのか予測することで、英文が流れる前に設問や選択肢を先に見ておくということです。今年の共通テストで出題された問題を例にお話ししますね。
I won’t give David any more ice cream today. I gave him some after lunch.
① David gave the speaker ice cream today.
② David got ice cream frotm the speaker today.
③ David will get ice cream from the speaker today.
④ David will give the speaker ice cream today.
まず選択肢を先に見てください。
①が”David gave”、②が”David got”、③が”David will get”、④が”David will give.”です。パッと見て、“give”と”get”に気づきますよね。
つまり、デイビットが「あげた」のか「もらった」のか、「視点」を考える問題だと分かるわけです。
ちなみに、”lend(貸す)”か”borrow(借りる)”か、”send(送る)”か”receive(受けとる)”か、というふうに視点を考える問題はよく出題されます。
問題に戻ると、選択肢は過去形で示されているものと、これから起こることを示しているものがあります。だから、過去の話なのか未来の話なのかもあわせて聞き取ればいいのです。
さて、問題の音声は、“I won’t give David anymore ice cream today. I gave him some after lunch.”
では、4つの選択肢の中で正しい答えはどれでしょう?
②ですね。
リスニングって、どんどん音が迫ってくるので焦る人は多いと思います。限られた時間の中で必要なことを聞き取って判断していく、というのはとても大事ですね。
英語力、すなわち単語力――どれだけ言い換えができるか
リスニングの重要なポイントとして、2点お話ししました。まず正しく音を発音できる能力。次に、準備を通してどんな内容が話されるのかを予測する能力ですね。
私は、リスニング力というのは3つの能力でできていると考えていて、3点目は「言い換え」に気づけるかどうかということです。これはリーディングにも関わってくる大事な能力です。
ですから、ここからはリーディングの勉強法をお話ししますね。
共通テストのリーディングは、英文を読んだあとに脳内で情報をどんどん処理していかなければいけない、という印象でした。
そうですね。おっしゃるように実践的な処理能力が試される問題になりました。資料を読んで、ある部分と別の部分とグラフの計3カ所から答えを導きだす、という問題はザラにあります。それから、英文の文量もセンター試験と比べると全体で約1,200ワードほど増えています。
「時間が足りない」と悲鳴が聞こえてきそうです。
大学入試に限らず、英検でもTOEICでも、時間内に終わらない原因は2つです。
第一の原因は、読むのが遅いということ。なぜ遅いかというと、知らない単語が多いからです。もし、高校生の皆さんに英検4級の問題を解いてもらったら、絶対に時間内に解き終わるんですよ。英検4級に出てくる単語って中学1~2年生レベルですから、楽に解けます。級が上がるにつれてどんどん時間が足りなくなっていくのは、単純に、その級相当の語彙力がないということです。
第二の原因は、解答の根拠を見つけるのが遅いということです。問題を解くために、文章のどこ読めばいいのか、どの部分を手がかりにすればいいのかを見つけるのが遅いんですよ。
やみくもに読むだけではいけないということですね。
そうです。例題を出して説明していきますね。
The development of AI is accelerating. Some experts are concerned about this technological advancement. They anticipate that AI will deprive humans of many occupations and many people will be unemployed. Consequently, they can’t earn sufficient money. From this viewpoint, AI is considered to be an enemy to humans. What are we supposed to do, if this gloomy future should be realized?
次の3つの英文のそれぞれが英文の内容に合うかどうかを考えてみましょう。
① AI will contribute to increase one’s income.
② AI will provide unemployed people with occupations..
③ AI may lead to a dismal outcome.
まず①は明らかに間違っている選択肢のつもりで用意しました。これを正しいと思った人は単語力に問題があります。特に高校生で間違えていたら、ちょっと深刻です。
②も間違った英文、③は本文の内容と合致しています。
英文②と③の見極めにあたっては、解答の根拠を見つけるための基本的な技術が求められているんです。スキャニングといいます。
②の英文の中には
”unemployed”と
”occupation”
という単語がありますね。この2つは本文にもありますから、そこを読めばいいのです。解答の手がかりというわけです。でも、「本文にこの単語があるから②は正しい」と考えてしまった人は待ってください。
本文には”deprive(奪う)”とあって、英文②には”provide(与える)”とありますから、②は本文とは真逆のことを言っています。
次に英文③を見ていきましょう。注目する単語は”dismal”です。本文のどこかにありますか?ないですよね。”dismal”は「憂うつな」っていう意味ですが、実は本文の”gloomy”という単語と同じ意味です。言い換えられているんです。つまり、同じ単語を見つけるのではなく、言い換えに気づいた上でスキャニングできるかどうかが大事です。
試験において正しい選択肢というのは基本的に言い換えられていることが多いです。英文②のように同じ単語が使われている選択肢はむしろ怪しいのです。
ところで、”gloomy”も”dismal”も「憂うつな」と説明しましたが、日本語で意味を説明することが可能なのは、このインタビュー記事を読まれる皆さんの母語が同じだからですよね。もし、この話を聞いている人たちがそれぞれ違う母語を話す人だったら?
私がCELTAを受験したとき、試験の一つに模擬授業があったのですが、生徒は各国からの移民の方々です。それぞれ母語が違うので、英語の意味を教えるときにはまさに言い換えて説明します。「もし私が”deprive something”したら、それは”take something”でしょうか、”give something”でしょうか?そうですね、”take”です。じゃあ、”provide something”したら、それは”take something”でしょうか、”give something”でしょうか?そうですね、”give”です」。実際はもちろん全部英語ですよ。こんなふうに、単語の言い換えの質問をどんどん投げ掛けて、生徒が理解しているかをチェックしていきました。
英検にしてもTOEICにしても共通テストにしても、テストで問われていることはまさにこれです。「言い換え」を尋ねられているわけです。
だから、リスニングにしろ、リーディングにしろ、言い換えに気づく能力が大事だということですね。
その通りです。そして、そういった能力を突き詰めると単語力に行き着くのです。英語力とはつまり単語力です。どういった表現を使えるか、どこまで言い換えができるか、それが問われているのです。さらに言えば、英語力とは、コミュニーションを取る相手や状況に応じて適切な単語や表現を使う能力なのです。
まさに、”not only for the test, but also for your future”の英語力ですね。
そう。くだけた場面なら、”Hey, I’m really happy”、フォーマルな場面では ”I’m pleased”。こうやって使い分けができることが英語力で、つまるところ単語力です。
たとえ厳しい道のりでも、“Once you are on the right track, you can master English”
では、単語を増やすコツってなんでしょうか。
効果的な技術はいろいろありますが、結局は「反復」です。
正直、反復学習がきつくて挫折している人はたくさんいると思います。それに世の中、語学の学習に関しては甘い言葉が多いですから、つい、そういった言葉にのって楽をしたくなりますが……。
「誰でもできる」、「すぐにペラペラ」、「中学英語で全部OK」などですよね。でも、語学は本来きついものです。反復なくしてはできるようにならない。それでも、他の言語が流暢に使える世界はめちゃくちゃおもしろくて、大変な分だけものすごいリターンがあるというわけです。正しい勉強法を愚直に続けることが一番です。
では、そのきつい道のりに挑み、その先に広がる世界を目指す皆さんに、アドバイスやメッセージをお願いします。
大事なことは、環境と、誰と勉強するかということです。まず環境ですが、語学学習においては少し厳しい環境が必要です。
私は現在、CELTAの上級資格であるDELTAに挑戦しています。3次試験まであって、今は2次試験に向かって頑張っているところです。挑戦を決めたときから、私は勉強のために、イスタンブールの予備校にオンラインで通いました。日本にはこの類いの予備校がありませんでしたから。
週に2回、日本時間の夜中12時から朝4時が授業です。結構きついですけど、自分には意志が弱いところがあって、厳しい環境に身を置くことが必要だと考えたんです。仕事から家に帰って10時半過ぎ、「あと1時間半で授業か…。今日は寝ちゃおう!」ってサボったこともよくありました。で、こうやって休むと、担任の先生から次の日の昼くらいに心のこもったメールが届くんです。「昨日はどうしたの?時差もあって大変なのはわかってる。あなたの頑張ろうとする気持ちは尊い」と言われます。すごく罪悪感がありますよ。でもそういう環境で継続することで、DELTAの1次試験に通っていくわけです。
やらなきゃいけないっていう環境がハッパをかけてくれるわけですね。
そうですね。あとは、誰と学ぶかです。やはり信頼できるいい先生と学ぶべきだと思います。特に、発音の正しい先生と学ぶことですね。
私の好きな言葉に、”Once you are on the right track, you can master English”、『いったん正しい道筋に乗れば英語をマスターできる』というものがあります。正しい道筋に導いてくれる先生と一緒に勉強することが大事かと思います。
英語講師 武藤一也先生から、大学入試【英語】で最も必要な力と、その伸ばし方を具体的にお伺いしました!
今日はありがとうございました!
武藤一也先生の著書
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